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人口減少社会と都市計画 IBS | IBS Annual Report 研究活動報告2017

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人口減少社会と都市計画

Challenges of Urban Planning in a Society under Demographic Transition

大村謙二郎

By Kenjiro OHMURA

はじめに

ここ 10 数年にわたって、人口減少と都市計画に関 連する議論がさかんである。人口減少と都市計画の関 係を論じた書籍、論文は膨大な数に上り、多くの論点 が提示されている。本稿で特に新規な論点を提示、分 析できるとは到底思えないが、土地利用計画や日独の 比較都市計画の調査や研究に長年携わってきた者の視 点から、あらためて俯瞰的に人口減少社会と都市計画 の課題について、日独の比較を交えて論じたい。ただ し、都市計画の課題といってもすべてもれなく扱える わけでなく筆者の関心と限られた知見により自ずと制 約、一定の偏りがあることを了解されたい。

本稿の構成は次の通りである。

まず、1.人口減少社会が含意するところとその諸 相を整理して、都市計画や空間整備に係わる枠組みを 概観する。次いで、2.人口減少社会が空間構造にどう いった影響をもたらすかについて、国土レベル、都市 圏レベルなど空間類型に応じた状況について見ていき たい。これらを踏まえて、3.今後の都市計画の課題と 若干の提案をおこなう。

1

人口減少社会の意味するところ:

総論的整理

人口減少の含意する点は、単に総人口の減少という ことだけでなく人口構造の転換、世帯、家族のあり 方、生活のあり方、働き方のあり方、ひいては社会全 体の構造の変化が今後引き起こされること、それが、 今までの都市計画、引いては住宅政策の見直しを要請 していると考えるべきだろう。

日本全体では 21 世紀の初頭に総人口がピークに達 し、これからは本格的な人口減少社会にはいることは 共通認識となっているが、これは日本一国に限ったこ とでなく、地球社会的な問題でもあり、人類社会が環

境・資源の制約を考えた場合、人口の増大と成長を前提 とした政策が多くの問題をはらんでいることを指摘す る声も強まっている。

地球社会の将来というスケールの大きな文明史的観 点から、地球社会が今後目指すべき方向として「グロー バル定常型社会」という考え方を打ち出しているのが広 井 (2009 a)だ。広井によれば、定常型社会という考 えの基底には「21 世紀後半に向けて、世界は、高齢化 が高度に進み、人口や資源消費も均衡化するような、 あるいは定常点に向かいつつあるし、またそうならな ければ持続可能でない」註 1)との認識である。

その上で、広井は人類社会が誕生してからの数千年 から数万年の長期の時間尺度で見た場合、拡大型文明 と定常型文明が交互に現れてきており、人類社会は 17 世紀に始まる科学革命を契機に市場化、産業化、情報 化の大きな革命的変化による単系的発展期を経て、第 3 の定常化文明の時代に入りつつあるとの見立てであ る。その中で、定常型社会では物の豊かさ、物的生産 よりも文化的、精神的なものにより価値を置き、地球 上の各地域の地理的・風土的多様性や文化、歴史的固有 性に重きを置く時代になるとの考え方を示している。

広井はその後の一連の著作において、人口減少をネ ガティブに捉えるのではなく、コミュニティのあり 方、再生を考え直す重要な機会であること、コミュニ ティをベースにした地球倫理のあり方などについて論 陣をはっている。日本の人口減少社会の将来を考える 場合もこういったグローバルで長期的、文明史的観点 から考えることも重要な視点だろう。

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が定着して社会が成熟し発展の余地がなくなると人口 減退期になるとのことだ。即ち日本列島は縄文後半期 の第一減退期、平安から鎌倉にかけての第二減退期、 江戸後半期の第三減退期を経て、21 世紀初頭の人口を ピークとして始まった第四減退期を、現在迎えている ことになる。ただし鬼頭は、現代の人口減少局面が過 去の変動の波と決定的に違う点として、地球環境の制 約の存在を強調している。

過去の人口変動の増加局面では、特定地域の人口集 中により文明もある程度成熟することで、技術・社会制 度が全国的に普及して人口が分散する傾向が生じてい る。歴史的なアナロジーに過度に寄りかかることには 留意すべきだが、人口縮小社会に入った日本でこの先 の人口分布がどうなるか、それに対して地域計画や都 市計画がどう関われるかが問われていることは確かだ。 将来の日本の人口構造の変化について、最近の社会 保障・人口問題研究所等の推計から確認しておこう註2) 社人研の出生中位推計(以下、中位推計)に基づけ ば、2015 年国勢調査の総人口 1 億 2 , 709 万人が長期 の人口減少過程に入り、2040 年の 1 億 1 , 092 万人を 経 て、2053 年 に は 1 億 人 を 割 り 込 む 9 , 924 万 と な り、2065 年には 8 , 808 万人になると推計されてい る。推計法の違いにより 1 億人を割り込む時期の違い はあるが、長期的な人口減少傾向に違いはない。

総人口の減少とともに年齢区分別人口構成の変化が 大きいことも、推計により明らかとなっている。つづ めて言えば、少子化と高齢化が一層進行すると同時に 生産年齢が減少することで、社会を支えるあり方に大 きな変化がもたらされるということである。

年少(0 〜 14 歳)人口と総人口に占める構成比も減 少傾向にある。1973 年の出生数 209 万人から 2015 年の 101 万人まで減少してきており、その結果、年少 人口(外国人を含む)は 1980 年代初頭の 2 , 700 万人 から 2015 年の 1 , 595 万人まで減少している。推計結 果では年少人口は 2021 年に 1 , 400 万人台に減少し、 2056 年には 1 , 000 万人を下回り、2065 年には 898 万人になるとされている。総人口に占める年少人口の 構成比も減少し、2015 年の 12 . 5 %が 2020 年には 12 . 0 %、2044 年、11 . 0 %と減少し、2065 年には 10 . 2 %となる。少子社会が一層進行するとの予測だ。 生産年齢人口(15 〜 64 歳)についても変化が著し い。生産年齢人口は戦後一貫して増大し、1995 年国

調では 8 , 726 万人に達した。戦後の日本経済の発展を 支えてきた大きな要因は、生産年齢人口増大という、 人口学でいうところの「人口ボーナス」の時代を日本 社会が経験したことにある。しかし 1995 年をピーク にその後減少過程に入り、2015 年には 7 , 728 万人と なっている。推計結果では 2029 年に 7 , 000 万人、 2040 年に 6 , 000 万人、2056 年に 5 , 000 万人をそれ ぞれ割り込む減少傾向を示し、2065 年には 4 , 529 万 人となる。これに対応して生産年齢人口割合も減少過 程を示し、2015 年の 60 . 8 %が 2017 年には 60 %を 割り込み、2065 年には 51 . 4 %となる。

老 年 人 口(65 歳 以 上 )に つ い て み る と、2015 年 の 3 , 387 万人が 2020 年の 3 , 619 万人に増加した後 に、緩やかな増加傾向を示し、2030 年の 3 , 716 万人 を経て、第 2 次ベビーブーム世代が老年人口に入った 後の 2042 年に 3 , 935 万人でピークを迎え、その後 は減少となり、2065 年には 3 , 381 万人となる。老齢 人口割合でその推移を見ると、2015 年の 26 . 6 %が 2036 年には 33 . 3 %と 3 人に 1 人が高齢者となり、 2065 年には 38 . 4 %、2 . 6 人に 1 人が老年人口とな る。老年人口の総数は 2042 年にピークとなるが、年 少人口、生産年齢人口の減少幅が大きく、相対的に老 齢人口率が増加するということだ。

生産年齢人口に対する年少人口、老年人口の比率を 示した従属人口指数についても、大きな変化が予測さ れている。日本社会が「人口オーナス」の時代に入って きていることを示すものだ。

老年人口従属指数は 2015 年の 43 . 8(働き手 2 . 3 人 で高齢者 1 人を扶養)から 2023 年の 50 . 3(同 2 人で 1 人扶養)となり、2065 年には 74 . 6(同 1 . 3 人で 1 人 が扶養)と推計されている。

生産年齢人口に対する全体的扶養負担の程度を示す 従属人口指数は、2015 年の 64 . 5、2037 年の 80 . 5 を経て、2065 年に 94 . 5(生産年齢人口 1 . 06 人で子 どもと高齢者を扶養)に達する。

総人口の減少や構造転換は日本国内で均等に起こる わけではなく、地域的な差異を伴って発生するもので ある。これについては後述するが、人口と並んで今後 の住宅政策や住宅地のあり方、引いては社会のあり方 に影響があるのが世帯数の動向だ。

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て世帯数は推移する。日本の世帯総数は 2010 年の 5 , 184 万世帯から増加して、2019 年の 5 , 307 万世 帯をピークに、その後は減少に転じ、2035 年までに は 4 , 956 万世帯まで減少する。世帯人員は縮小し、 2010 年の 2 . 42 人から 2035 年には 2 . 2 人となる。

世 帯 類 型 も 大 き く 変 化 す る。2010 年 〜 2035 年 に 単 独 世 帯 が 32 . 4 % → 37 . 2 % に、 夫 婦 の み 世 帯 は 19 . 8 % → 21 . 2 %、 ひ と り 親 と 子 世 帯 は 8 . 7 % → 11 . 4 % と そ れ ぞ れ 割 合 が 増 加 す る。 一 方、 か つ て 主 要 な 世 帯 類 型 で あ っ た 夫 婦 と 子 の 標 準 世 帯 は 27 . 9 % → 23 . 3 % に 低 下 し、 そ の 他 世 帯 も 11 . 1 % → 6 . 9 %に減少と、世帯の小規模化や単身世帯化が進 行する。

ま た、 世 帯 主 の 高 齢 化 も 顕 著 で あ る。2010 年 〜 2035 年 に、 世 帯 主 が 65 歳 以 上 の 世 帯 は 1 , 620 万 → 2 , 021 万 世 帯 に、75 歳 以 上 の 世 帯 も 731 万 → 1 , 174 万 世 帯 に 増 加 し、65 歳 以 上 世 帯 主 比 率 は 31 . 2 %→ 40 . 8 %に増加する。65 歳以上世帯主の中 で 75 歳以上世帯主の占める割合も 45 . 1 %→ 58 . 1 % と、一層の超高齢化が進行することが予測される。

高齢世帯で増加が著しいのは単独世帯と「ひとり親と 子」世帯で、65 歳以上の世帯のうち、単独世帯が 498 万→ 762 万世帯と 1 . 53 倍に増大し、次いで「ひとり 親と子」が 133 万世帯→ 201 万世帯の 1 . 52 倍となっ ている。さらに 75 歳以上世帯では「ひとり親と子」世 帯が 1 . 97 倍、67 万→ 131 万世帯となり、単独世帯も 269 万→ 466 万世帯、1 . 73 倍と増加している。こう した高齢世帯の増大は地域差はあるとしても、潜在的 な空き家ストックの増大を示唆するものといえよう。

日本の状況と対比的に見るためにドイツの人口動向 を見ておこう註 3)

ドイツ連邦統計局は 2015 年ベースの人口予測を公 表している。それによれば、2014 年・2015 年に生 じた難民流入などの突発的な状況を読み込むことの困 難性を認識しながら、いくつかの仮定や推計バリエー ションを交えた形で、今後 5 〜 7 年程度は人口増加を 示すが、それ以降は減少に転じると推計している。即 ち、2013 年の 80 . 2 百万人はネットの流入人口増で 増加するが、2023 年には再び 2013 年水準まで低下 し、2060 年には流入人口量が継続的に小さい場合は 67 . 6 百万人に、流入人口量が継続的に大きい場合は 73 . 1 百万人となると推計している。ドイツは出生数よ

りも死亡数が上回る自然減状態傾向にあり、それを補 うものとして外国人のネット流入増による社会増があ るが、その相殺の中で、長期的には人口減少社会に突 入するとの見立てである。

ドイツでは生産年齢人口を 20 〜 64 歳に設定して いるが、この年齢層の人口も減少傾向を示している。 2013 年には生産年齢人口は 49 . 2 百万人であったが、 この数字は 2020 年以降は減少し、2030 年には 44 〜 45 百万人、2060 年には外国人流入継続程度の違いに よるが、34 〜 38 百万人に減少するとの予測だ。日本 と同様にドイツでは今後の外国人労働力の流入を仮定 しても、従属人口指数は増大するとの予測である。

世帯数については、2017 年 2 月にドイツ連邦統計 局が 2035 年までの予測を公表している。それによれ ば、2015 年時点の 40 . 8 百万世帯が増加して 2035 年には 43 . 2 百万世帯に達する。これらの変化の要因 は、①人口規模と年齢構成、②世帯の小規模化の 2 つ である。この結果、単身及び 2 人世帯者は 2015 年の 45 百万人から、2035 年の 50 百万人まで増加する。 このうち約 2 , 600 万人は 60 歳以上の高齢者であり、 これは 2015 年に比べて 5 . 5 百万人の増加となる。

世帯の伸びも地域別人口の伸びと同様で、2015 年 〜 2035 年にかけて旧西独の一般州では 7 %増、さら に都市州では 13 %増を示すのに対し、旧東独の一般州 では 3 %減となる。世帯構造について、ドイツでも地 域差を伴って出現することが確認できよう。

2

人口減少は空間構造にどのような変化を

もたらすか

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以外の地方圏の産業振興を目的としてきた。

過去の成長時代においては基本的に国土インフラ整 備も含めて、都市的な土地利用を拡大成長させる方向 に終始してきた。過去の都市的需要の増大が横溢して いた時代から、人口減少時代に入ると都市的土地利用 需要がいまだ存在する地域・地区がある一方で、需要 が縮退して伸びきった市街地、過去に整備されたイン フラ施設の需要が存在しなくなる地域が出現すること が、大いに予測される。

以下ではいくつかの資料に基づきながら、人口減少 社会の空間構造の諸相を素描しよう。

2014 年 7 月に策定された「国土のグランドデザイ ン 2050」は、2050 年の国土の長期的展望を示してい る。その中で今後の人口減少社会に関連して次の空間 構造を示している。

2010 年 〜 2050 年 の 地 域 別 将 来 人 口 動 向 に お い て、大都市圏・地方圏別の将来推計人口(中位推計)の 動向を年齢別にみると、全地域で若年・生産年齢人口の 減少や高齢者の増加が進むが、①東京圏での高齢者の 大幅増、②地方圏での生産年齢人口の大幅減など、地 域差がみられるとしている。

さらに、同じ期間に国土全体で人口の低密度化と地 域的偏在が同時に進行するとしている。全国を 1 km メッシュ毎の地点でみると、人口が半分以下の地点が 現在の居住地域の 6 割以上を占めるとの予測である。 2010 年時点の居住地域は国土の 5 割であるが、現行 居住地域の 2 割の地点が無居住地域となる恐れがあ る。一方で人口増加が見られるのはわずか 2 %の地点 で、主に大都市圏に分布している。市区町村人口規模 別に見ると、総じて人口規模の小さい所ほど人口減少 率が高くなる傾向が出ており、人口 1 万人以下の市町 村では人口が約半減するとの予測だ。因みに 2050 年 までの全国平均減少率は約 24 %と推計されている。総 じて国土の大半で人口の低密化が進む一方で、局所的 に高密化が進み、高齢者の地域分布が今後も大きく変 化するとの見立てだ。

国土のグランドデザインが描いた 2050 年の地域別 人口構造は、人口減少がより空間的な偏在を持って現 出することを示した点で示唆的であったが、より社会 的衝撃を持って迎えられたのが、2014 年「日本創成 会議」の発表資料(以下、増田レポート)である。これ によれば、2040 年には全国で半数の自治体が存続危

機に陥るとのセンセーショナルな内容で、各種メディ アにも大きく取り上げられた。このままの人口減少傾 向、地方からの人口流失傾向が持続すると、2040 年 には現在の自治体の約半数にあたる 896 自治体で若年 女性(20 - 39 歳)が 50 %以上減少し、将来的には消 滅の恐れが高いとのことである。日本創成会議では、 出産に適した若年女性(20 - 39 歳)の人口動態に着目 して独自集計を行った結果、社人研の推計よりも速い ペースで、若年女性の減少が地方で顕著になるとのこ とである。

地方都市では高齢化比率は高いが、高齢者人口の減 少も始まっており、その傾向が加速する中で、高齢者 介護に必要な職場、雇用機会が減少するなど、若い人 材を惹きつける雇用の場が減少している。一方で、東 京などの大都市圏では今後一層の高齢化と高齢者人口 の増大で、介護・福祉に関わる若い人材が必要となり、 加えて大都市には地方都市に比べて多様な雇用の機会 が存在することから、若年男女の大都市への集中傾向 が加速するとの考えである。地方消滅に対抗するため に増田レポートが打ち出したのが、東京一極集中を抑 制し、地方からの若者を受け入れるダム機能を地方の 中核都市に求め、そのための施策の充実を、というも のであった。

打ち出された予測や方向性に対しては、多くの反論 も 寄 せ ら れ て い る。 山 下(2014)、 小 田 切(2014) 等は増田レポートの根拠である推計方法の問題点や、 地方中核都市ダム堰き止め論、選択と集中の政策がか えって地方の疲弊を招来する危惧を指摘し、小規模自 治体や農山村が簡単に消滅するものではないこと、あ るいは若者の地方回帰や田園回帰の流れがあることな どを強調している。

本稿では増田レポートとその反論を巡っての当否を 検討することはできないが、人口減少が日本の国土空 間に現れる諸相は多層的、多面的であり、その政策も 高度成長期型の成長のパイを配分する政策では成立し なくなること、多様な状況に対応した政策が必要で全国 標準・統一型政策はありえないことは確認しておこう。

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課題が噴出するとの指摘がある。松谷(2015)、増田 (2015)は、東京圏居住の団塊世代全員が 75 歳以上に なる 2025 年までの 10 年間で、後期高齢者が 175 万 人増加し、そのための介護・医療施設の不足が深刻化 し、さらにこうした介護等を支える人材の手当が大き な問題としている。東京都市圏も含めて巨大都市圏は 膨大な人口ストックを抱えており、それが高齢化・単身 化等の人口構造の転換により、かつてない深刻な空間 整備課題が生じることになる。

人口減少の急激な進行によって都市に生じる問題に ついて、どちらかというとミクロ的な現象に着目して 「都市のスポンジ化」と言う言葉が使われるようになっ てきている。国土交通省の都市計画基本問題小委員会 資料によれば註 5)、都市のスポンジ化とは「都市の内部 において、空き家・空き地等が、小さな敷地単位で、時 間的・空間的にランダムに相当程度の分量で発生するこ と及びその状態」と定義している。都市のスポンジ化が 進行することで「サービス産業の生産性の低下、行政 サービスの非効率化、まちの魅力、コミュニティの存 続危機」などの悪影響が生じる危険性が認識され、可能 な都市計画的対処について議論されている。また、典 型事例を想定しながら都市スポンジ化の地域類型を例 示している。それによれば、首都圏では郊外住宅地と 超郊外住宅地(50 km 圏外)の 2 事例、地方都市では中 心部商業地と郊外部住宅地の 2 事例を挙げている。ス ポンジ現象といっても一様に起こるわけでなく、まだ ら模様であることが確認できよう。

対比的に、ドイツでの人口減少、人口構造転換が空 間的にどう生じているかを簡単に見ておこう。

ドイツ政府の国土整備・都市計画に関わる研究機関 BBSR註 6)が、ドイツ連邦全域を小空間単位に区切っ て、1990 年〜 2010 年の変化の状況および 2010 年 〜 2030 年の人口変動予測を行っている。

1990 年〜 2010 年の旧東独地域では、ベルリン、 ドレスデン、ライプチヒ等のいくつかの大都市を除 き、ほぼ全域的に人口が減少しているのに対し、旧西 独では大都市での人口増が顕著だが、旧西独全域でも 人口減少地域は殆どみられない。統一ドイツ発足後、 旧東独地域ではインフラ整備、都市環境改善のために 膨大な投資がなされたが、旧東独地域に存在した産業 は競争力がなく、また企業の新規立地もそれほど進ま ず、意欲のある若者を中心に、旧東独から旧西独地域

都市地域への人口移動が生じたことが、この 20 年間の 人口変動の結果である。

2010 年〜 2030 年の予測では、旧東独で人口の増 加が期待されるのはベルリンと周辺地域であり、その 他の地域では軒並みに人口減少がみられる。旧西独地 域でも減少地域が広がっており、大都市圏ではミュン ヘンで堅調な人口増が期待され、その他では西南ドイ ツのフライブルク周辺地域での人口増が予測されてい る。総人口が減少する中で、限られた地域で人口増が 起こるというのが、BBSR の予測である。

ただし、最近の旧東独の主要都市では人口回復や新 たな産業形成が見られ、都市成長が期待できる都市が 出てきている。ドイツ全体でも大都市回帰と新たな都 市集中がおき、アフォーダブル住宅の不足による新た な住宅難問題の出現が懸念されているなど、都市・地域 の縮退と成長のまだら模様が全国的に生じている。21 世紀に入ったドイツでは、縮小都市の議論が盛んにな り、様々な政策対応がなされている註 7)

3

都市計画の課題

以下では人口減少社会における計画制度について筆 者の考えを提示した上で、いくつかの論点について言 及することにする。

(1)土地利用計画制度について

まず確認しておきたいことは、現行の都市計画制度 や国土利用計画制度ができた当時は、人口・世帯数も伸 び、経済成長が所与で、都市的土地利用需要が旺盛で あり、そのための都市・国土インフラ整備の必要性が当 然と認識された、成長拡大時代であったという点であ る。都市的土地利用の無秩序な拡大・混乱を規制し、整 序・誘導すること及び計画的にインフラ整備と市街地開 発を進めることが、実態はともあれ、都市計画の基本 的理念であった。したがって現行都市計画制度では都 市化圧力が少なく、開発需要が小さいと想定される地 域では、強い土地利用コントロールは必要ないとの構 えとなっている。2000 年の都市計画法改正による線 引き自由選択制は、その考えを示したものである。

(6)

は、マクロ的に見ると大幅な宅地需要は存在しないよ うに思える。しかし、地域によって人口・世帯数の減少 傾向は異なっているし、宅地需要が一律・均質に減少す るわけではない。大都市遠郊外部や地方の都市周辺地 域では地域経済の衰退減少が見られ、活性化のために 規制を緩和し、何とか建築・開発活動を誘発、誘導した いという意向が存在している。線引き廃止によって、 地域の活性化を果たしたいとの考えだ。

全国的な道路網整備、モータリゼーション、IT 技術 の発展によって、距離と空間の制約を超えて、自由に 開発し施設立地できる状況が、従前よりも増大してき ている。また、農村集落や田園地域居住者に農林業専 業者が少なくなり、かつその多くは兼業で他の職業に 就く人が多く、成人であれば通勤用に乗用車を各人で 保有するために、世帯あたりの自動車保有台数は増大 し、自動車依存型の都市的ライフスタイルが地方都市 でこそ、より拡がっている。生活・就業スタイルも、都 市と農村で殆ど変わらなくなってきている。

都市の大拡張時代は収束したかもしれないが、都市 的土地利用の全国的拡散の状況は、むしろ広がってき ている。経済のグローバル化、消費スタイルの変化な どで、産業施設の立地パターンも大きく変わってきて いる。ネット通販や生鮮食品などの物流量の増大に対 応する形で、大都市圏の消費地の近郊でスケールメ リットを追求する大規模物流施設の需要が高まってき ている。高速道路、広域幹線道路を活用して、まと まった空間で相対的に地価の安い立地に、これら物流 施設が立地している。格好のターゲットになるのが調 整区域内の工場等の跡地、あるいは維持が困難となり 耕作放棄地となっている農地である。最近では耕作放 棄地にソーラーパネルなどの設置が多発しているが、 これも適正な立地誘導が行われているとは言いがた く、持続可能な土地利用としては大きな問題含みだ。

開発需要が縮小し、総体的には都市化圧力が減衰し ているからといって、土地利用コントロールの必要性 が減るわけではなく、むしろ地域の特性と実情に対応 したきめ細かな土地利用ルールやマネジメント方策が 必要であるとの認識を、多くのプランナーは共有して いる。

筆者はここ数年、時代環境が大きく変わる中での土 地利用計画制度についての研究会に参加してきた。研 究会では、人口減少・地方分権時代を見据えて、新たな

土地利用計画制度の提案を行った註 8)。その詳細は梅田 (2016)等を参照されたいが、そのエッセンスを筆者

の理解した範囲で紹介しておこう。

人口減少時代に入っても、ますます土地利用計画の 必要性は高まるとの背景・認識は上述の通りであるが、 その上で、現行の国土利用計画法 10 条の規定「土地利 用の規制に関する措置等」の趣旨をより積極的に活かし て、土地利用規制に関連する個別 5 法(都市計画法、農 振法、森林法、自然公園法、自然環境保護法)の併存状 況を突破し、市町村が主体となり行政区域全体に渡っ て策定される総合的土地利用計画をベースとして、生 活・生業の総体を対象とした土地利用の規制、誘導、管 理を行い、良好な環境空間を持続的に形成しようとい うのが、新たな土地利用計画制度の趣旨である。個別 の土地利用の変更や開発行為などの建築的行為を伴わ ない土地利用秩序の改変に対しても、きめ細かなコン トロールを行う仕組みを作ること、また地域発展に必 要なプロジェクトについても総合的環境との調整を踏 まえた上で積極的に位置づけること、市町村の範囲を 超えた影響のある土地利用プロジェクトについて広域 調整の仕組みを整えることなどを、提言している。多 くのプランナーが主張する、都市・田園や自然環境を 一体的に管理、整備、発展させる市町村主体の土地利 用計画制度であり、欧米の土地利用計画制度の標準と なっている考えだ。安曇野、篠山、富士宮などの自治 体では、市町村主体の総合的土地利用計画制度を策定・ 運用する先駆的取り組みを進めており、研究会の提言 もこれらからの示唆といえる。

(2)都市計画マスタープランと地区計画について

(7)

転換に対応した基本法の見直しが筋ではないだろうか。 ドイツでは、都市計画基本法である建設法典は、基 本原則と計画策定に際しての考慮事項等、計画の理 念や目的に係わる規定を、基本法の改定毎に拡充して いる点に日本との大きな違いがある。最近改訂された 2015 年の建設法典では、第 1 条「都市基本計画の課 題、概念及び基本原則」の第 5 項で、都市計画の潮流、 考え方の変化に対応した規定が盛り込まれている。

すなわち、「都市基本計画(F プランおよび B プラン で構成される都市計画の意)は社会的、経済的そして環 境保護的要求事項について将来世代に対する責任の下 に、相互が調和するような持続可能な都市発展と、全 体の福利厚生に役立つような社会的に公正な土地利用 を実現するべきである。都市基本計画はさらに、人間 を尊重した環境を確保し、自然的生存の基盤を保全、 発展させ、気候保全・気候変動対応を特に都市発展に あっても支援し、都市計画的景観、地区の景観、風景 を建築文化的に保全し、発展させることに貢献しなけ ればならない。このためにも、都市計画的な発展は内 部市街地の整備のための施策を優先的に行うことに よって達成されるべきである。」と、内部市街地の整備 に重点を置いた持続可能な都市発展、社会的公正な土 地利用、気候変動への対応、自然的生存基盤の保全、 広義の建築文化につながる地区・都市景観の保全、創 出、風景の保全・発展など、現代ドイツ都市計画の重要 な課題、理念を盛り込んだ規定となっている。都市計 画が社会経済の変化に対応した形で変わっていくとす れば、その価値観や理念、考え方の変化を都市計画の 基本法のところで随時改訂して取り入れていく、ドイ ツ都市計画の姿勢は示唆する点が多い。

現行の計画制度にある都市計画マスタープランと地 区計画を、より充実した内容にブラッシュアップする ことも重要と考える。市町村が自己責任で主体性を もって策定される都市計画マスタープランについて、 自治体の行政区域全域に範囲を広げて、都市的土地利 用、施設整備に限定せず、都市的土地利用の自然的・生 態系的基盤である農林業用地、自然的土地利用も含め て計画的に位置づける「都市計画マスタープラン」(こ の名称も自治体の考えによって改変することも考えら れるが)とすることが考えられる。

また 2014 年の都市再生特別措置法で制度化される ことになった立地適正化計画については、コンパクト

&ネットワークを実現するための重要な計画制度とし て位置づけられ註 9)、現在多くの自治体で策定作業が進 んでいる。都市計画マスタープランの補足として位置 づけられているが、本来は都市計画法の改定の中で都 市計画マスタープランの充実項目として制度化される べきと考えるが、それはおいても、立地適正化計画の 眼目である都市機能誘導地域・居住誘導地域の設定と同 時に、居住誘導地域に指定されなかった現存の住宅地 等の区域外をどう取り扱うのか等、今後発生が予想さ れる空き地・空き家候補地区に対する手当が極めて重要 であろう。そうした内容も含めて、都市の成長・縮退を 動態的に位置づける都市計画マスタープランの充実が 求められている。

地区計画が制度化されて以降、当初の規制強化型か ら規制緩和・誘導型など、多様な目的に対応する地区 計画へと進化してきた。調整区域も含めて、一定の広 がりを持つ地区の土地・建物利用の改変や開発に際し て、地区計画を前提とする自治体が多くなったのは、 全体計画と地区レベルの計画の二層型で都市計画を構 成していく考え方が定着してきたこととして、素直に 評価すべきであろう。しかし、地区計画を策定するこ とが、必ずしも良好な地区環境の創出にはつながらな い事例も生じている。今後は地区計画の中味とクオリ ティが問われて評価される時代になり、質の高い地区 計画に進化することが必要であろう。

(8)

という議論がある。

以上のドイツの文脈を参考にした場合、日本でも地 区計画の質向上、都市開発プロジェクトの中味を公共 的に議論する場の整備や、重要な都市開発・再開発プロ ジェクトにおいては、コンペティションを前提として 公開議論で開発内容を詰めて評価し、それを地区計画 につなげていくといった一連の計画・開発プロセスを充 実していくことも、今後の課題といえよう。

(3)成長指向型都市プロジェクトの再考を

様々な統計・資料によれば、東京圏への人口・産業・ 諸機能の集中傾向が継続している。一連の増田レポー トは東京一極集中現象に警鐘を鳴らし、地方消滅、東 京の危機に陥らないように、地方中核都市への人の流 れを堰きとめ、バランスの取れた国土・都市配置構造を 進めることを提言していると理解できるが、現実に起 こっている現象はこれと正反対の方向である。

東京は成長の要として都市再生特区等が数多く指定 され、複合都市開発プロジェクトが続々と推進されて おり、都心区をはじめ枢要な交通結節点ではタワー型 マンションが建設されている。これらは東京都心域へ のオフィス・ホテル・住宅への需要等が旺盛であること の反映であろうが、成長戦略を加速させるために、更 なる規制緩和や容積率緩和を行うことが、果たしてど こまで正当化できるのであろうか。

たとえば、近年、都心や鉄道駅前などの交通結節 拠点で続々と開発・建設が進んでいるタワーマンショ ンは、長期的に持続可能な都市ストックたり得るので あろうか。住宅過剰時代が懸念されており、人口減少 の伸びも東京圏ですらピークアウトが予測される中 で、短期的に需要があるからといってタワーマンショ ンが競って建設されることは、問題の将来への先送り ではないだろうか。最近のタワーマンションでは 1 棟 で 500 戸、1 , 000 戸を優に超える大型物件もあり、 一挙に同じような階層の人が居住することになり、保 育所や小学校のニーズが局所的に増大している。これ は、高度成長期に郊外のニュータウンや大型団地で一 挙に同じような階層の人が居住する住宅開発が進めら れたことと同型の問題の再現ではないだろうか。郊外 住宅団地の場合は複数棟に別れて平面的に分散してい るが、タワーマンションでは 1 棟に多数の世帯が高密 度に居住しており、将来の大規模修繕や更新などの際

に、小さな町に匹敵するような人口規模を抱え、時間 の経過とともに居住世帯の高齢化、社会経済条件が変 化する中でどのように合意形成を図るのか、抱えてい る問題はより深刻かも知れない。

家族構造や働き方が変わり、都心居住へのニーズが 高まり、それへの対応という形で都心部に住宅建設が 進められるのは市場の流れかもしれないが、過度の規 制緩和やインセンティブ付与は、逆に市場のあり方を 歪めることになっていないだろうか。好立地条件では 人気集中により地価高騰し、この地価上昇の影響緩和 のために規制緩和でより一層の高度利用を可能としよ うというロジックの中で、規制緩和が期待される所は より地価が高騰し、そうするとより一層の規制緩和や インセンティブ付与が求められる。結果的に、将来の 需要も先食いするような形で開発が進んでいく。

地価があまりにも高くなった場合には、オフィス・住 宅投資は控えるか、別の適地を求めて移動するかが市 場の流れであるが、過度な成長戦略の採用はそういっ た市場の働きを歪め、特定の場所に投資、開発を惹き つけてしまう恐れが高い。過度の成長志向型都市開発 にそろそろ歯止めをかけること、極端に局所的な偏っ た開発に対する総合的な成長管理の計画と施策が、人 口減少社会に向けて求められている。

ドイツでも近年の好調な国内経済に支えられて、大 都市への人口や産業の集中傾向が生じている。ドイツ は連邦制をとるため一極集中的な状況ではないが、ベ ルリン、ミュンヘン、ハンブルク、フランクフルト等 の大都市では、都市のジェントリフィケーションが進 行し、住宅価格高騰とそれによる適正価格の住宅不足 という問題が生じ、これら大都市では一定の規模・量の 都心住宅の建設にあたっては、一定割合の社会住宅を 確保するような制度を導入している。また、大都市の 住宅価格の高騰を忌避して、新たな就業・居住の場を、 魅力と特色のある中規模都市などに求める動きがある ことも報告されている註 10)。少なくともドイツでは、都 市・住宅開発の市場の過熱に対し一定の抑制・対抗措置 をとる動きがあることは、示唆的である。

(4)生活空間ストックの管理:都市のスポンジ化にどう 対応するか

(9)

した時代に、開発予定跡地が使われないまま市街地の 各所に未利用地や遊休地の形で散在する状況が各所で 見られたし、地方都市の中心市街地のシャッター通り 化現象による空き地・空き家の存在が、まちの荒廃を一 層加速させる問題等が指摘されていた。あらためて都 市のスポンジ化が強調されるのは、人口減少・高齢化時 代に入り産業構造が大きく変化する中で、都市の内部・ 周辺部・縁郊外部の各所に、空き地や空き家が累増し、 開発需要を簡単に見出せないまま荒廃状況が加速する のではという危機意識がより強まってきていることの 現れであると、筆者は理解している。

都市スポンジ化対策に対して的確な処方箋や解決策 があるわけではないが、少なくとも次の二つの方策が 重要であろう。

一つは、これ以上のスポンジ化現象の進行・拡散を抑 制すること、あるいは将来のスポンジ予備軍を抑止す る事前的施策を確立することである。野沢(2016)が 指摘するように、大都市周辺自治体の調整区域では、 規制が不十分なままアパート建設や戸建て住宅開発が ゴマ塩状に広がっている事例があり、将来の人口減 少を想定した場合、立地条件の悪い所は将来の空き家 となる蓋然性が高い。少なくともこれ以上に、市街化 調整区域あるいは計画白地地域、また市街化区域内に あっても、将来のスポンジ化が予測される地域に拡散 的に住宅・都市的土地利用が広がることに対して、抑 制する仕組みを作り上げることが必要であろう。ただ し、現行の市街化区域、調整区域、その外側の白地区 域といった区分が果たして望ましいのか。一定のまと まりのある集落地区も含め、生活空間として持続的な 維持・発展が可能かつ望ましいエリアにあっては、一定 の秩序ある開発・建築が許容される仕組みを作り、その 意味で生活空間ストック管理の総合的施策を、自治体 が主体になって策定することが望まれる。

第二の方策は、すでに顕在化・進行中のスポンジ化に 対して歯止めをかけると同時に、改善・解決の総合的プ ログラムを支援する制度的仕組みの構築である。スポ ンジ化については多くの知見と調査が今後ますます必 要となるが、大筋としては基礎自治体である市町村が 主体となって、地区の地権者、居住者、事業者及び専 門家プランナー等との協働により、息長く持続的に改 善に取り組むことが不可欠である。市街地の類型に応 じてスポンジの規模や様相も異なるが、スポンジ化し

た土地・建物の流動化や活性化には、強い所有権に対し て一定の歯止めをかけることで、所有者の不適切な管 理による周囲への悪影響を緩和し、暫定利用も含めた 活性化の利用主体を積極的に活用・育成することが肝要 だろう。最近では、自治体による街づくり株式会社や リノベーション街づくり組織が、既成市街地の空き地・ 空き家を活用し、地域活性化イベントやコンバージョ ンで地域の付加価値を高めるといった対抗策も起こり つつあり、こういった動きを支援し広げることが一つ の対策になると期待できよう。

ドイツでも東西統一後、旧東ドイツの諸都市では急 速な人口減少や産業構造転換の大波に襲われ、市街地 内での空き地・空き家現象が各地で起きた。先鋭的に現 れたのは、東独時代に都市郊外に建設された大型団地 での大量の空き家発生問題であった。これに対する連 邦政府の「東の都市改造」などの都市計画プログラム等 については、筆者の別稿を参照されたい。21 世紀以降 のドイツでは、市街地の衰退と荒廃問題に着目して一 連の都市計画助成プログラムを行っており、一定の成 果を収めつつある。

日本の都市スポンジ化と類似の現象がドイツの都市 では問題視されており、重厚長大型産業が盛んであっ た産業都市や 19 世紀末〜 20 世初頭にかけて計画規制 が不十分な時代に形成された、いわゆるグリュンダー ツァイト市街地は多くの問題を抱えているが、これら に対する連邦・州政府の助成を受けつつ、ドイツ各都市 では多様な既成市街地改善策が実践されている。

ベルリンのプレンツラウアー・ベルク地区は長年の ベルリン市の取り組みが実を結び、現在はジェントリ フィケーションが懸念される状況だ。

ライプツィッヒ市も統一以降、急激な人口減少が見 られ、既成市街地で空き地・空き家問題が深刻な状況と なり、これを与件としながらより魅力的な地区に再生 するために、多孔都市(Perforierte Stadt)という概 念を打ち出し、NPO、地域住民、建築家、プランナー の参画を得ながら、改善の取り組みを着実に進めてい る註 11)。近年は人口も V 字回復で、旧東独の中でも都市 計画成功都市として高い評価を得ている。

(10)

て、空き地・空き家問題に取り組んでおり、参考となる。

4

おわりに:成熟の時代に相応しい都市計

画マインド

人口減少社会は、全体的に活力が衰えて様々な都市・ 住宅問題が噴出し、解決の手立てを見いだすのが困難 なグルーミーな社会を想像しがちだが、それはあまり にも悲観的な見立てである。日本社会が人口減少を経 て成熟社会に至る過程で、都市計画の役割はますます 増えるし、成熟社会は決して停滞した社会ではなく、 活力があり、生活の楽しさや豊かさを享受できる社会 を作り上げるための都市計画といった楽観主義を持ち たいものだ。

考えてみると、先進諸国を含めて日本の 20 世紀後半 の爆発的な都市成長と経済成長は、人口ボーナスに恵 まれ自然災害等も比較的少ない、例外的に恵まれた時 代であった。この時代に培われた成長拡大型都市計画 の考え方を維持・追求することには無理があろう。

バブル崩壊後、「失われた 20 年」という何となく悲 観的な言葉がある。確かに、かつての高度経済成長期 と比較すれば日本経済は低成長に陥っているが、1990 年代以降の日本の都市の変貌は、大都市・地方都市を問 わず著しいものがある。

いろいろ批判もあり得ようが、実現した大規模プロ ジェクトや都市空間整備は、デザイン的にも洗練され て魅力的なものが多くなってきている。大都市公共交 通機関の正確で安全な運行と利便性の高まりもあり、 日本の都市は清潔で安全で、魅力あるスポットが増 え、それが現在の都市観光の隆盛につながっている。

しかし、まだまだ成長が足りないからといって、経 済成長のために都市計画を手段視する、あるいは都市 間競争に勝ち抜くために一層の都市開発を、という発 想は倒錯した考えではないか註 12)。これからの人口減少 社会から定常状態にソフトランディングして、成熟社 会を目指すのに相応しい都市計画マインドが必要不可 欠であろう。

自戒の念を込めて記すのであるが、筆者は今でも「華 やかな都市開発プロジェクト」や「都市間競争に勝ち抜 く都市再生」という言葉に惹きつけられるアンビバレン トな気持ちがある。多分、現在までの日本の都市計画 を担ってきた世代の人々には、多かれ少なかれ共通す

るマインドかも知れない。

これからの都市計画を担うのは、高度成長期の都市 計画の成功・失敗の実体験もなく、また 1980 年代の バブルの都市開発の狂騒を知らない世代が中心となろ う。この世代は土地神話に無縁であるし、成長拡大型 都市計画に対する思い込みも少ない。都市計画に長年 関わってきた筆者も含めた先行世代の責務として、後 続の都市計画世代と協働し、成熟社会時代に相応しい 都市計画マインドを作り上げていくこと、ある意味で 都市計画の哲学を見直すことが、極めて重要と考える。

参考文献

1) Engelbert Lütke Darldrup: Die “perforierte Stadt” – neue Räume im Leipziger Osten, in Information zur Raumentwicklung, Heft 1 / 2 , 2003

2) 梅田勝也:地方分権時代の土地利用計画制度のあ り方 ,『UED レポート』2016 夏号,pp. 6 - 19 3) 大村謙二郎(2013):ドイツにおける縮小対応型

都市計画:団地再生を中心に,『土地総合研究』 2013 年冬号,pp. 1 - 20

4) 大村謙二郎:縮退から成熟にむけた土地利用計画 制度を考える-ドイツの事例を参考に-,『UED レポート』2014 夏号,pp. 8 - 22

5) 大村謙二郎:ドイツにおける団地再生と都市計画 文脈,『都市計画』No. 322,2016 . 09,pp. 40 -43

6) 小田切徳美:農山村は消滅しない,岩波新書, 2014

7) 鬼頭宏:人口から読む日本の歴史,講談社学術文 庫,2000

8) 鬼頭宏:2100 年、人口 3 分の 1 の日本,メディア ファクトリー,2011

9) 国土交通省国土政策局:国土のグランドデザイン 2050 参考資料,2014 年 7 月 4 日

10) 国立社会保障・人口問題研究所:日本の将来人口推 計(平成 29 年推計)

11) 佐伯啓思:経済成長主義への訣別,新潮社,2017 12) 野澤千絵:老いる家,崩れる街,講談社,2016 13) 広井良典:グローバル定常型社会,岩波書店,

(11)

14) 広井良典:コミュニティを問いなおす,ちくま新 書,2009 b

15) 広井良典:人口減少社会という希望,朝日新聞 社,2013

16) 増田寛也編著:地方消滅,中公新書,2014 17) 増田寛也編著:東京消滅,中公新書,2015 18) 松谷明彦:東京劣化,PHP 新書,2015 19) 山下祐介:地方消滅の罠,ちくま新書,2014 20) 山下祐介・金井俊之:『地方創成の正体』,ちくま新

書,2015

21) 亘理格:立地適正化計画の仕組みと特徴,吉田克 己・角松生史編『都市空間のガバナンスと法』,信 山社,2016 所収,pp. 105 - 126

註1) 広井(2004):p. 6

註2) 国立社会保障・人口問題研究所(2017)

註3) 以下の人口・世帯動向の記述はドイツ連邦統計局 のホームページに掲載の資料による。

https://www.destasis.de

註4) 日経(2017 . 05.15)では「止まらぬ人口減、地 方、都心との二極化進む」との見出しで、地方で の人口減少が深刻化していること、さらには政令 市静岡でも指定基準の 70 万人を割り込む状況を 招いており、大都市であっても今後は人口減少が 深刻な課題となることを報じている。また、東京 新聞(2017 . 05 . 13)は「都心 3 区人口流入中」 の見出しで、千代田、中央、港の都心 3 区では人 口増が継続中で、都全体では総人口の減少に転じ る 2025 年以降も、増加を続け、2040 年には 4 割増の 63 万人に達すると報じている。その要因 は都心マンション供給が進んだこと、働き方が代 わり職住近接、交通利便性が評価されたことなど を挙げている。一方で待機児童問題、高齢者介護 問題が課題となるとしている。

註5) 社会資本整備審議会、都市計画・歴史風土分科 会、都市計画部会の下に設けられた都市計画基本

問題小委員会に関連資料が示されている。以下の 記述はこれによる。

http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/ s 204 _toshikeikakukihonmondai_past.html 註6) Das Bundesinstitut für Bau-, Stadt- und

Raumforschungの 略 称 で、 直 訳 す ると 連 邦 建 築・都市・空間調査研究所となる。連邦の都市計画 担当省であるBundesministeriums für Umwelt, Naturschutz, Bau und Reaktorsicherheit (BMUB)の研究機関として連邦政府の推進する都

市計画、住宅政策、国土整備等の政策を支援する 調査研究を行っている。本拠はボンにある。 註7) ドイツの人口構造の転換とそれへの都市計画対

応、団地再生等については大村の別稿も参照され たい。

註8) 日本開発構想研究所の「UED レポート」の 2014 年夏号、2016 年夏号にそれぞれ、「土地利用計 画制度の再構築に向けて」「地方再生と土地利用計 画」と題して、関連論文が掲載されている。筆者 も寄稿している。

註9) 亘理(2016)に、この計画についての詳しい制度 的位置づけと検討がなされている。

註10) ド イ ツ の 新 聞Frankfurter Allgemeinの2017. 02 . 02 の記事で、大都市での住宅価格の高騰を 忌避して地方大学とし、中規模で魅力ある都市に 居住や就業の場を移す傾向が出ていることが報告 されている。“Berlin? Och nö! Aufschwung in der Vorstadt”,

http://www.fay.net/-gque- 8 rh 0 q

註11) ライプツィッヒで計画事務所を開設して街づくり に取り組んでいる日本人プランナーのサイトが有 益な情報を提供してくれる。

http://www.urban-ma.de/

また、ライプツィッヒの都市計画責任者として大き な役割を果たしたDaldrup(2003)の論文も参照。 註12) 経済成長主義、効率主義に対する根源的批判とし

参照

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